設立趣旨

  昨今の日本では韓流の影響で、韓国の大衆文化を通じて韓国・韓国人のことを知る機会が増え、多くの人が韓国に親しみを抱くようになり、実際、世論調査の結果からも韓国(人)に対するイメージや好感度が過去に比べ好転していることがわかります。これは韓国(人)への関心につながる大きなきっかけをつくったことで、たいへん素晴らしいことだと思います。

しかし、これは韓流スターをはじめ、韓国ドラマや映画、歌など、商品化した大衆文化に興味が高まっている社会現象によるところが大きく、等身大の韓国や一般的な韓国人をよく知り、深く理解している上でのことだとは言いがたいものがあります。さらに本当の理解を進めていくためには、韓国への関心や情報が大衆文化に偏っている現状を改善し、ドラマや映画などで描かれている韓国社会や韓国人を通してだけでなく、より様々な分野の情報や知識に接する機会を増やしていく環境づくりが必要です。そうすることで、もっと多角的に韓国(人)を知り、その考え方や価値観、行動様式、日本(人)との違いなどへの理解を深め、両国の友好関係を築いていく土台をつくることが出来ると考えています。

韓国について多方面からの関心を呼び起こすために、私はその一つの方法として多様な分野とジャンルの書物を翻訳という形を通してお互いの国に紹介することが有効だと考えています。

韓国では日本の大衆文化に対する開放政策が始まった頃の2000年代に入ってから現在に至る約10年間、日本の小説が常に小説部門において年間ベストセラーの10位内に入っているほど、読者層が増えており、その需要に応じて日本図書の韓国語翻訳も非常に盛んになされています。これは優れた日本の小説だからこそ自然と需要を生み出した側面もありますが、その背景には日本文化開放政策によってより自由に日本の漫画やアニメに接し、日本の技術やアイディアが作り出すものや現代文化に親しみを持ち始めた若い世代の登場があります。

一方、日本においての韓国図書の翻訳出版は最近一部の出版社によって進められている動きも見られますが、他の諸外国図書の翻訳出版に比べれば、ほんのわずかな数に止まっているのが現状です。
両国図書の翻訳出版現況について、韓国においての日本図書の翻訳出版は2010年の統計によると、約4500点にも達していて(注1)、刊行および販売部数とも韓国の出版界における翻訳図書の中でもっとも高い比率を占めています。しかし、それとは対照的に、日本における韓国図書の翻訳出版は年平均50点程度に過ぎない(注2)のが現状です。

これは、高い評価を得られるだけの韓国図書が少ないことにも起因するといえますが、仮に需要が芽生えたとしてもその需要を掴んで伸ばしてくれる環境が整っていないことによるところも大きいと言えます。韓国図書が日本語で読まれるように、数多くの翻訳書が刊行されていれば(又は電子版になっていれば)、より多くの人々が韓国図書に触れる機会を得ることが出来、韓国の様々な分野に対して関心が向けられるとともに、専門家の研究も促されるようになります。そしてこの循環がまた新しい需要を呼び込むことも予想されます。

日韓の出版文化交流におけるこのような格差を解消するためには、日本における韓国図書の翻訳出版(又は電子版)をより活性化する必要があります。そのためにはいつくかの課題がありますが、その中でも肝心なことは良質の「翻訳」ができる翻訳者を育てることだと私は考えています。韓国語を日本語に訳せる翻訳者が日本に幅広く根付くようにするためには、翻訳者養成や翻訳支援活性化などに出版業界をはじめ、より多くの支援が求められていますが、現在それが十分なされているとは決して言えない状況にあります。

このような現状を踏まえて、当翻訳会では実際の翻訳活動を通して韓国図書を日本に紹介することをはじめ、有能な翻訳者の養成を目標に、翻訳講座や勉強会、講演会などを開催します。また、一般の人々にも韓国図書や日韓翻訳の楽しさを感じてもらうことで、韓国図書への関心を広め、将来は翻訳者の裾野の拡大につながるように、学びやすく続けやすい韓国語講座を開催する事業を進めていきます。

特に、実際の翻訳活動において、当翻訳会の会員は、翻訳を通して日韓両国の真の理解に努めることを目標にしています。これまでも当会の日本人会員は韓国の様々な書物を原語で読み、マスコミや大衆文化だけではなかなか伝わらない韓国(人)のことがより深く理解できるようになりました。それは、書物の内容をただ情報として「知る」だけでなく、韓国のことについて日本人が書いたものとは違って、韓国人の考え方で書かれたことから読み取れる内面の世界があり、韓国語が持っていることば独自の世界観から「感じ取れる」奥深さがたくさんあったからだと思います。

日韓翻訳推進会はこれまでの経験を活かして、このようにして「感じ取れる」奥深い世界が日本の皆さんにも同様に伝わるように、日本語に忠実に翻訳する能力と感性をより鍛え、実際の翻訳活動を通じて日本人と韓国人の相互理解につながるように今後努めてまいります。

他方、韓国(人)にも日本のよいところをもっと知ってもらえるようにします。そのために、世界で日本が進んでいる分野に関する情報や、人々がより暮らしやすくするための官民の取り組みや社会のシステム、そして市民意識に関する情報などを韓国語に翻訳してWebサイト等で発信していきます。このような情報交流の一翼を担うことで、日本と韓国の社会が学び合い、共に成長発展していけるように努めたいと考えています。

以上のような活動を続けていくためには、日本と韓国の出版社や著者、編集者、講演をしてくれる専門家、また、情報源になる各種機関やメディア関係者などをはじめ、広く地域社会からの賛同や理解、協力を得ることが必要と考えます。よって、活動に制限が予想される個人や任意団体ではなく、より一層信頼の得られる特定非営利活動法人として活動し、日韓翻訳活性化のための環境づくりに役立てることで、日本と韓国の善隣友好関係持続と発展ための土台強化に貢献できることを願っております。

                                                    2011年 10月 1日 

                                                  理事長  崔 鶴山(최학산)

 

(注1)出典:大韓出版文化協会「国立中央図書館納本代行統計」(2010年年間納本図書基準)
この中の50%は漫画、その次に、文学・社会科学・児童書が合わせて約30%(約1500点)を
占めている。
(注2)大韓出版文化協会「出版著作権輸出DB」のデータ(1978-2008)及び著作権エージェン
シ(2009-2010)による推計。